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以下は、私が作った「フィンランド、ウィンターフィーリング (Finland, Winter Feeling)」という題名の掌編です。清水研介
製作者 清水 研介
© Copyright 2008 Kensuke Shimizu
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フィンランド、ウィンターフィーリング (Finland, Winter Feeling)
清水研介(Kensuke Shimizu)
フィンランド、冬の夜。Kは約束の時間きっかりには現れなかった。私は、駅の出入口のやや重いドアから外へと足を踏み出した。Kを探した。いなかった。しばらくたたずみ、街の空気を浴びた。駅の内部よりもやや乾燥しているような気がする。Kは、バスターミナルの方からこちらへと歩いていた。私は、その姿を見て、近づくにつれて、Kであることの確信を得た。
Kは、何か前に会った時から、変わったような気がするが、それは、おそらく三年近い時間が、そう思わせたのだろう。話をしているうちに、KはやはりKであるという思いが湧いてきた。
街は、まだ薄明るかった。外気は昨日から再びやや寒い気候に逆戻りをしていた。トラムが左右を動いて移動する。駅近くの三角地帯の建物群は、こちらに何かの合図あるいは記号を投げかけているように思えた。最近三年間の出来事の会話とこれからのことについての会話を織り交ぜながら、なじみの通りを歩いていった。ただ、Kとここを歩くのは、おそらく初めてであることと、金曜日の夜の平日と土日とのはざまの、木曜日までとは何か違う空気で、別世界へと進んでいる気持ちを抱いた。自分ひとりで以前しばしば歩いた道に、ひさしぶりに足を踏み入れていた。
目立つ黒板上に何か文字が見えた。このイタリアンレストランでKとともに食事と話をしながら過ごした。メニューに不思議な名前のデザートを見つけ、私達は、それを注文した。私は、最近三年の写真を見せて、説明を加えた。Kの知っている場所の写真も中にはあったが、大部分はアートの写真で、私はKに初めてそれらを見せた。以前ともに過ごした夏の出来事をもとにした作品のことを説明すると、微笑んで喜んでくれた。周囲では、紳士淑女が週末の始まりを会話で彩っていた。さまざまな声の波に埋まりながら、私達も会話を進めていった。光で演出された広い部屋に、長方形、正方形の机の造形が感じられ、それぞれの机には、人とレストランのメニューが群がっていた。
その翌朝、家で、私は“まだ”夜の世界が漂う中、コップにコーヒーを注いだ。ステレオには、シュールな歌手の声。隣人はまだ、闇に彷徨い、時計は、鳴らない。フィンランドのヒップホップの音楽コレクションを机に置く。インクの汁がしたたる。時計は濡れる。静か。ただステレオの音楽、タイピングのカチカチ音。鳥さえもまだ休む。コーヒーはまだ温かい。印刷機は順調。最近は、再びマイナス十度ぐらいになる。ためらい。ためらい。寒さは、私を閉じ込める。何かの空間へ。孤独の目をした人間。ステレオの歌手。自分の声の表現者。私。ただの孤独者になりきれない孤独者をきどる、いや順調と言い張る不調の人物。殻をまとって行き場を探す人。そんな感覚を少し感じ始めるような時は、大阪の若者の陽気な姿を思い浮かべることもあり、その陽気な姿は自分に勇気を与えてくれる。
地下のコンピュータ室では、常連がひたすら打ち続ける。ある人物は、机に座り、出番を待つ。出番の合図、緑ランプが灯る。その人物は、コンピュータに向かう。知り合いに挨拶をする。さまざまな言語が交差する。変換作業。日本語も。ランプは緑から赤へ。次の人は、机の位置へ。そのまた次は、さらに奥の共有個室へ。外からは、アイスの街道を歩いて、秘密の入口へ、続々と他者が現れる。ドアを開ければ、一瞬熱い眼差しの表情、すぐに真剣な表情へ。私も部屋で打ち続ける。
夜は眠れない。昼間は眠れる。日々は、何をしてすごしているのだろうか。ただノルマをこなしているのだろうか。時々思う。ノルマとは何だろうか。私は、ノルマを自ら決め付けて気を楽にしようとしているだけなのだろうか。朝と夕方の作業。昼の眠たさ。夜の異様なテンションの高さ。ちぐはぐさ。週末の眠たさ。十五時間睡眠。隣人は言う。おはよう、と。私が夜にようやく目覚め、個人の朝を迎える。
そんないろいろな思考が頭をよぎりながら、「冬は元気でやっていこう」という思いを奮い立たせていく。希望と期待を秘めて。
[「フィンランド、ウィンターフィーリング (Finland, Winter Feeling)」のウェブサイト・ヴァージョン。2008年1月。製作者は、清水研介。]
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